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2024年11月29日 薪窯作り その3(Construction du four à bois 3)

薪窯の燃焼室とその上のキャスタブル台が完成したところ、いよいよパンを焼く焼床を作る番だ。この作業に取り掛かったのは8月末だった。まずは断熱レンガの内側に耐火レンガの壁(3段)を作った。

続いて、焼床自体をセットした。砂を敷いて、水平に固めて、その上に四角い耐火レンガを並べた。ここは慎重に行う作業だった:その上にパンが乗るからね。実は奥に向けて若干の傾斜を作ったので、その傾斜に沿ってレンガを水平に並べて、あんまりガタガタにならないようにするのは意外と難しかった。レンガのサイズに合わせた焼床の幅ではなかったので、端っこのレンガを切る必要があった。

そこで大活躍したのはダイヤモンドカッターの切断機。耐火レンガはとても硬いから、それぐらいが必要。最初使った時は結構怖かったけど、慣れるとコツを徐々に掴んできた。切断する部分をジョウロで濡らしながら切るので、二人で作業を行う必要があるが、最後の方は一人で全部できるようになった。

切断機を一番活用したのは薪窯の両サイドに並べるアーチの支えになるレンガを切る時だった。レンガを斜めに切るので、抑えるのは難しかった。ここは2人で作業しなければズレる危険性があった。無事に全部を並べ終えた時になかなかの達成感を味わった。

次に薪窯の回転扉を取り付けた。これもまた重いものを上げるのは大変!力に自信があっても、やっぱり年を感じるね。扉の両サイドにレンガを積んで固定して、この段階で工事を休憩して、9月のフランス帰省に行ってきた。しかし、扉が付くとだいぶ薪窯の雰囲気が出てきたなと眺めながら満足気に思った。

10月上旬に作業を再開して、いよいよ窯作りの醍醐味であるアーチ作りが始まった。まずは計算した曲線に合わせて木製の型を作った。窯の焼き床の上にその型を乗せて後ろの壁に当ててみて、曲線に合わせて後ろの壁の耐火レンガを切った。この作業は切断機の威力を屈指しても、なかなか難しかった。でも結果的になんとなくアーチの曲線になった。その上からアーチ自体の耐火レンガを積み始めた。

木製の型を奥にセットして、楔に乗せて、耐火レンガを縦に並べ始めた。そのレンガが蓄熱の役割を果たす。何度も計算してみたのに、結局並べてみるとレンガの数が微妙に想定と違った。結局その場その場に合わせて耐火モルタルで調節したり、楔のレンガを切ったりして、作業を進めた。結果的にちゃんとアーチお形になってきた。

木製の型を抜いて、ちょっと手前にずらしてセットし直して、またレンガを並べる。この作業を3回繰り返したら、窯の扉のところまできた。途中でレンガがうまくハマらずヒヤッとしたけど、結局アーチが完成した。型を外した時、アーチはちゃんと崩れず自立していることを見て感動した。上に乗っても問題なかった!最後にノコギリで木製の型を崩して、窯の扉と両サイドの小さな隙間から木片を取り出した。それもまた大変な作業だった。

やっとうちの薪窯の姿が見えてきた。ちゃんとできるもんだね。

アーチの天井のモルタルのカスを取り除いて、きれいにした。そのために窯の扉から中に入るしかないのだが、やっぱり五十代には狭い洞窟探検は厳しいものだ...そこで助っ人として体の小さい娘が登場した。粘土遊びと騙して、よく働いてくれた。おかげで、窯の中はだいぶきれいになった!

最後に窯の扉の両サイドに耐火レンガを積んで、アーチが露出していた部分を塞いだ。さらに外側に断熱レンガ、そしてブロックを積んだ。ブロックは久しぶりだった!モルタルのちょうどいい粘り具合の感じは忘れていた...

ということで、ここまで来て見た目はかなり薪窯の完成品に近づいてきた。最後は煙突の接続部分を作らなければならない。それもまた次回報告する予定!

2024年09月30日 風車の国(Au pays des moulins)

今年のフランス帰省は両親の故郷リールに行ってきた。フランスの北部のフランドル地方で、ベルギーとオランダのフランダース地方と同じ文化圏だ。風がよく吹くので、風車がたくさんあったし、今でも文化財として多く残っている。

フランドル地方の風車のほとんどは木造で、基礎の4本足の上に回転可能な小屋が乗っている構造になっている。周りの12本のポール(キリストの12人の弟子の象徴)に鎖を繋ぎ、階段を引っ張りながら少しずつ風車の46トンを回転させて風向きに合わせる。

今回は地元の近くのコミーヌの風車(le moulin Soete)を見学することができた。風車の羽に布を張って風を受けることにより羽が回る単純な原理だが、その布を広げて、端に付いている鎖を羽の木枠に引っ掛ける必要があって、なかなか難しい作業に見えた。風の強さによって、布を羽の前面、半分、1/4など合わせて張るらしい。強風の日は羽の木枠のエッジだけで回るそうだ。

この日はちょうど風がなく、赤い布を羽の全面に張ってもらった。それでもなかなか回ってくれなかった。それでも赤い羽根の風車の姿はとても美しかった。

いよいよ外階段に登って、風車の2階まで上がった。意外と急な階段で、雨の日は結構危ないかもしれない。階段の上の床に扉があって、そこからロープを垂らして、羽の動力で小麦の袋を3階まで簡単にあげることができるそうだ。

風車の2階に入って、更に中の階段で一番上の3階に登った。そこには風車の心臓部分、羽の軸と巨大な歯車があった。あの巨大歯車に上のタイヤの車輪を当てると小麦袋を下から上げる仕組みが作動する。

一方、下にある横歯車は縦の原動の巨大歯車にはめると石臼が回る仕組みになっている。石臼の上に小麦を入れる投入トレイがあって、振動によって小麦が少しずつ石臼の中心に落ちて、二つの石の間に擦り潰されて、外側に全粒粉となって出てくる。

この風車に2つの石臼があった:片方は小麦粉を挽くため、そしてもう片方は家畜のために大麦や豆類を挽くためだったそうだ。石臼は一般的に下の石が固定されて、上の石が小麦の上に乗せられて回るのだ。石に刻まれた溝の中に小麦がいい具合に細かく磨り潰されるように、石と石の間にちょうどいい隙間が決まっている。

しかし風が強くなると石臼の回る上の石がスピードにより浮くことがある。その問題を解決するために軸の下に(2階)錘が2つ付いていて、遠心力で広がると上の石を引っ張って石臼の隙間を一定にする仕組みがあった。数百年前のものとしてはアナログでありながらものすごくハイテクな仕組みだったと感心した。

風車の2階に降りた時はそこに上の石臼から落ちてくる小麦粉が木の枠の中に通って、袋の中に溜まるようになっていた。3階に小麦をセットしたら、あとは粉屋さんがほとんどこの2階で作業をしていたそうだ。

小麦粉の袋がいっぱいになったら、袋を替えて、小麦粉を隣のスペースにある樽の中に移していた。挽いたばかりの小麦粉はまだ熱くて、樽の中に回して冷ましていた。小麦粉が冷めたら、樽の底から抜け落ちて、ベルトコンベアと小さいカップを組み合わせた仕組みで小麦粉を自動的に篩の上まで運ばれていた。回る篩の中に落ちた全粒粉は奥から手前を順番に小麦粉、細かい麩、そして荒い麩に分けられていた。古いの下の小さな扉からそれぞれの粉が袋に集めることができた。あとは完成した粉袋をまたロープを使って一階の外側に下ろすことができた。

自分の祖先がもしかしたら収穫した小麦をこの風車まで運んだことがあるかもしれないと思うと、感慨深いな。今回は色々説明してくれた風車のご主人はここで挽いた全粒粉をくれた!思い入れのある粉で嬉しかった。これを使って美味しいパンができるかな?

2024年08月24日 薪窯作り その2(Construction du four à bois 2)

ブロックで薪窯の「箱」を作ったあといよいよ窯自体を作る。ブロック積みのあとは今度レンガを積むことになります。最初は燃焼室の部分から作業する。7月に入ってから、夏休みが始まってすぐ、まずレンガを並べてみた。構造を想像して楽しみだった。

ブロックと違って、耐火モルタルを塗って、レンガを接着させる。耐火モルタルは粘土っぽくて、レンガとレンガの間の潤滑剤のようなあもの。レンガに塗る時はまるでダクワーズにクリームを塗るみたいだったけれど、やっぱりレンガは重い!レンガを並べて、少しずつ燃焼室の下の部分が見えてきた。

耐火レンガを6段重ねて、薪を置くロストル受けを取り付けることができた。その周りに断熱レンガをつけて、砂で穴埋めをした。形になってなかなか楽しい作業だった。ちゃんと並べてある?とか、ちゃんと並行なの?とかああだこうだ言い合いながら作業が進んだ。でも段々と多少のガタガタは耐火モルタルで均すことができることが分かってきて、少し気が楽になった。

更に作業が進んで、燃焼室の内扉を取り付けることができた。薪窯らしくなってきたね。また、積んだレンガは土台の上とぴったり同じレベルになった時、ちゃんと計画通りで感動した。

次は燃焼室の外扉を設置した。まだ固定されていなかったので、落ちないようにモルタル袋で抑えた。重いキャスタブル台を上に載せることで完全に固定される。その作業を待ちながらブロックの内側に断熱煉瓦を積み重ねた。

木の枠を作ったあと、急いでキャスタブル耐火モルタルで外扉の上に設置する台と燃焼室の上の台を作った。燃焼室の上の台は炎を通すために塩ビ管で穴を残す。その型の中にキャスタブル耐火モルタルを流し始めた。夕方の作業を始めたのに、なかなか途中で止められなかったので結構焦った。結局、暗くなっても頑張って、やっとできた。表面はちゃんと水平かどうか不安だったけどね。

固まったキャスタブル台を型から外して、強度を増すために一度火を入れた方がいいとのことでしたので、その日はバーベキューをやった。キャスタブル台の上に焚き火をして、その中にジャガイモを焼いた。あのジャガバターは格別に美味しかった!

ああだこうだ言いながら、なんとか二人だけで重さ百キロぐらいあるキャスタブル台を燃焼室の上に乗せることができた。その重さでやっと前扉が固定された。キャスタブル台の周りに断熱煉瓦、砂、古煉瓦をしいてレベルを合わせた。なんとなく薪窯の形が見えてきた。

燃焼室の中から見ると下から順番に灰が落ちる空間、ロストル受けの上に薪を乗せて燃やすところ、そして狭まった上部には火が焼床に出る穴が見える。これで燃焼室は完成した。次の作業はパンを焼くところだ。それもまた楽しみだ!

2024年06月30日 薪窯作り その1(Construction du four à bois)

ゴールデンウイークにいよいよ薪窯作りが始まった。職人たちは鉄筋を配置して、ブロックを積み始めた。薪窯の土台になる部分の形が見えてきた。

コの字の形に積んだブロックの中に砂利を詰めた。なかなかアクロバティックな作業で、あらためて職人の技はすごいなと思った。

次はパン窯の土台に蓋を閉めるように鉄筋コンクリートを準備した。窯の重さに耐えるために強度が必要で、またアーチの横にかかる力を抑えるためにU字の鉄筋を増やした。それで十分横に開くことを防ぐと思う。天井のところにまた同じ技で強度を増す予定。

これでパン窯の土台が完成した。職人はちゃんと並行を保証してくれたし、これから我々が安心して作業の続きをできる。

とはいえ、モルタルを作る、水糸を引く、ブロックを積むなど、我々にとってすべての作業が新しかった。最初のコテ捌きは相当辿々しかった(笑)。

それでも素人ながらなんとなく作業が進んで、ブロックの一段目ができた。

なんと、娘の方がプロ並みの目地ゴテ捌きを見せてくれた。作業が進むにつれて徐々に慣れてきて、上手(?)になってきた。

そして、ブロックの最後の段まで積み終わった。これで箱ができた。これから中にレンガを積んで薪窯自体を作る作業にはいる。また違う技を身につけなければならない...まだちょっと不安だけど、楽しくなってきた!

2024年05月12日 今年の庭の小麦(Le blé de notre jardin)

今年もルヴァン「福来ちゃん」を植え継ぎするために家庭菜園レベルのライ麦と小麦をうちのポタジェで栽培している。秋早く種を蒔いたせいか、3月末から小麦の出穂が始まった。ライ麦も4月に穂を出した。ポタジェの土の栄養が豊富だったためか、ライ麦は2メートルぐらいまで高くなった。自分よりも大きくなったね。

雨の次の日の午後、ライ麦の穂を見つめたら、みるみるうちに雄蕊が出てきた。こんなに目で見えるほどの現象とは驚いた!数日後にライ麦の雄蕊から大量の花粉が出てきた。こんなに出るんだとびっくりした。実はライ麦は結構他家受粉する植物なんだ。だからいっぱい花粉を飛ばすのだ。

それに比べて、小麦は基本的に自家受粉なので、あんまり花粉を飛ばさない。うちの小麦はライ麦より2週間以上早く花が咲いて、4月中旬に雄蕊が出てきた。雄蕊自体は小さく、外に出る時はもうあんまり花粉を飛ばさなくなる。だから小麦の交雑と品種改良は難しいですね。

今は小麦の穂が膨らんで種がふくふくとできてきた。だいぶ黄色に染まってきて収穫が近づいてきた。

でも美味しくなった小麦の粒は雀の餌食になって集中攻撃をうけるようになった。あっちこっち穂がスカスカになっていくのを見て、収穫することを決めた。多少緑でも、種が十分できているし、吊るして干せば茎の栄養分はもうしばらく穂に移って、問題なく乾燥した小麦のいい粒が得られる。雀に全部食われるよりもマシだ。

小さい庭の一列の小麦だったから雀の集中攻撃を受けたかな。より広い面積だったら、多少喰われても問題ないかな。縁があって、近くの畑を借りることができた。放棄された農地を活用してあこがれの小麦畑を作れるかな。今年は薪窯作成で忙しいのに無謀な挑戦かもしれないけど、この機会を逃すといけないと思って、こんな広い畑を耕し始めた。ま、土いじりが好きだし、とりあえず適当に食べれる野菜を作ってみようかと思う。秋から少しずつ小麦の面積を増やせたらいいかな。趣味の農業を楽しもう!

2024年03月20日 薪窯計画はじまる(nouveau fournil)

今後パンを焼くために薪窯を作ることになった。なぜ薪窯?なんとなく薪窯のある生活に憧れていたこともあって、昔ながらの素朴なパンはやっぱり薪窯で焼かなきゃなというイメージがあったね。また、ドリアンパン学校で薪窯は非効率に見えて、実は効率的であることを学んだ。家の一角で小さいガスオーブンでパンを焼くと何度も同じ作業を繰り返すことになる。一方、ある程度大きい薪窯を作れば、一気にたくさんのパンを焼くことができて、その余熱でさらにお菓子や煮物も作れる。環境問題にも関心があって、化石燃料のガスをたくさん使う今のオーブンにちょっと違和感をかんじている。薪窯なら薪の供給と森林の管理さえバランスよくすれば、カーボンニュートラルになれるはず。さて、これから我々の手でその薪窯を作るわけだが、DIY素人レベルの私たちは不安しかない。やってみなきゃわからない!

でも、薪窯を作る前にその周りの小屋をまず立てる必要がある。そこはプロに任せて、知り合いの里山建築研究所に依頼した。もともと憧れていた古民家や板倉の家だったが、家は東日本大震災の後に建てたため耐震性を求めて普通のホームメーカーにしてしまった。今回は後悔しないように憧れ小屋にした。薪窯の小屋は庭に建てることにしたので、種子から育てた杉も伐採して、場所を作った。

基礎屋さんはなかなか早く仕事を進めてくれた。さすがプロだなと感心した。内庭でアクセスが難しいのに小さなユンボで地面を掘って、下準備をして、基礎の枠を作ってくれた。そのあと、遠い道路から八岐大蛇のような長い管で生コンクリートを流した。基礎職人もこの珍しい光景に興味津々だった。

基礎が乾いてすぐに小屋を建てる作業が始まった。我々も少しだけ職人さんの手伝いをして、大変勉強になった。思い梁を運んだり、バランスをとって屋根に登ったり、職人さんはやっぱりすごい技術を持っているなとまた感心した。

あっという間に板倉の小屋ができた。まだ屋根は仮止めで、引き戸も窓もまだ付いていないけど、薪窯計画はだいぶ具体的になってきた。

入口の近くに作業場ができる予定。窓からの光がそこを照らす。狭いけどいい感じ。

奥の方は壁がなくて、薪窯の半分が外に出っ張るかたちになる。次の作業としてはそこに薪窯の土台を作ることになる。

2024年02月12日 ルヴァン種について(notre levain chef)

パン屋にとって、ルヴァン種は仕事の中心的な存在である。リュスティックでは酵母種よりもパンの栄養価値を高めながら、消化しやすいパンを生み出してくれる乳酸発酵のルヴァン種を選んだ。ルヴァン種を作るのは至って簡単:小麦粉と水を混ぜて、発酵するまで待つだけ。せっかくルヴァン種を作るのだから、地元つくばらしい特別なルヴァン種を作りたかった。そのために庭で去年作った小麦の全粒粉を使った。きっとウチらしい菌たちが入っているに違いないと思った。

最初は小麦粉に混ぜる水は筑波山の山頂近くに探してきた。紫峰杉の裏に湧いている男女川の源流の水。生水なので、つくばらしい菌が入っているに違いないと思った。

小麦粉と水を混ぜて、待つ。そして毎日新しい小麦粉と水を同じ量たして、微生物の餌を増やす。最初は雑菌がたくさんいて、小麦粉より土っぽい匂いがしたけど、三日目から発酵が始まって雑菌の匂いが消えた。炭酸ガスが生産されて、泡で新しいルヴァンが三倍の高さまで膨らむようになった。匂いも青っぽい穀物の香りに変化して、ルヴァンっぽくなってきた。

ルヴァンが安定的に毎日膨らむようになってきたが、味見してみると、どうも求めている乳酸発酵の酸味が足りないような気がしてきた。そこで、庭で育てたライ麦でルヴァン種を植え継ぎはじめた。ライ麦には多くの乳酸菌が棲みついていることが知られている。予想通り、数回ライ麦の粉で種継ぎしただけで、うちのルヴァンがヨーグルトのいい香りしてきた。味見すると適度な酸味もあって、満足した。しかし、その時からルヴァン種が膨らまなくなった。あれだけ炭酸ガスでルヴァンを膨らませていた酵母ちゃん(また乳酸菌)はライ麦の乳酸菌と相性がわるかったみたい。そう、実は菌同士は合う合わないとか結構ある話なんだ。さて、困った困った、風味の良いルヴァン種ができたけど、膨らまなければパンにはならない。そこで、ちょっと天然酵母を足すことにした。地元の菌にこだわって、つくば名産の福来(ふくれ)みかんのジュースと皮を少々ルヴァンにたした。

ちょっと一般的なやり方ではないけれど、徐々にルヴァン種がまたいい感じに二倍以上膨らむようになった。どうやら福来みかんの中に乳酸菌と仲のいい酵母ちゃんがいたようだ。面白いことに、みかんを入れたのに、発酵の頂点に達すると柑橘系の香りではなく、りんごの香りになる。乳酸菌と酵母の共同発酵する過程で、青リンゴから甘いりんごの香り成分が出てくるみたい。適度な酸味もあって、うちのルヴァン種が安定してきたので、「福来ちゃん」と名付けた。今はオ・グ・リュスティックのパンは福来ちゃんが発酵させたもの。

うちのルヴァン福来ちゃんの中身は気になっていたので、顕微鏡で観察してみた。

一番多かったのは丸くて小さい乳酸菌。その分裂の形状からPediococcusの仲間だと思う。また棒状の乳酸菌もいっぱいいて、それはLactobacillus属のものでしょう。大きくて丸い粒は小麦のスターチの顆粒で、段々溶けて小さくなっていく。その間にコントラストの低いまるい粒は酵母で、Saccharomyces、またはPediococcus乳酸菌と相性がいいKazachstaniaという酵母かもしれない。その微生物たちは協力して、いい感じにルヴァン種を発酵させてくれるわけだね。

最近、福来ちゃんを冷蔵庫で数日間保管するときは酢酸っぽい匂いがしてくる。顕著に酢酸菌が入っていなさそうだが、乳酸菌でも酢酸発酵する場合がある。どうやら、水分量が少なくて寒いところで発酵すると、ヘテロ発酵の乳酸菌も酢酸発酵に切り替えるようだ。一方、水分量が多くて暖かいところで発酵すると、乳酸菌は本来おの乳酸発酵を行う。酢酸自体は悪いわけではなく、少量でいい香りを構成する代謝産物なのだが、多くなると不快な匂いに変わる。ルヴァンについてまだまだ勉強が必要だ。でも天然ルヴァンは奥深くて面白い。その上手な取り扱い方はいいパン屋さんの腕の見せどころだ!

2024年01月01日 新年のゴーフル(Les gaufres du nouvel an)

我が家では4世代以上続く伝統がある。フランスの北部、リール周辺のフランドル地方(フランダースともいう)ではゴーフル・フラマンド(gaufres flamandes)というワッフルが昔からの名物。薄い生地の間にラム風味のブラウンシュガーバターを塗ったワッフルだ。伝統的に大晦日前に作って、元旦に親戚が集まる際におばあちゃんが孫にお年玉としてあげていた。大人も元旦にコーヒーを飲みながら、このワッフルを食べていた。だから新年のゴーフル(gaufres du nouvel an)と呼ばれている。次の写真でゴーフル・フラマンドは手前で、奥はゴーフル・ド・リエージュ(gaufres de Liège)。

我が家で代々受け継いだゴーフル・フラマンドの型がある。おそらく19世紀末期のものかと思われる。元々祖父の石炭ストーブの上に設置するための鋳物の型だったので、うちのガスコンロの上で利用するために缶に乗せないといけない。そうするとちゃんとゴーフル・フラマンドを焼ける。

まずワッフルの生地を型に乗せる。

せんべいの型と同じように両サイドで数分焼いたら、ワッフルが出来上がり。

まだ熱いうちにワッフルを二枚おろしに切って、

ブラウンシュガーバターを塗って、挟んで、新年のゴーフルが出来上がり。

大変な作業なので、昔は家族総出で作っていた。Au goût rustiqueでは作業性を上げるために電気のワッフルメーカーを使っている。伝統的な模様ではないけど、伝統の味を守っている。次の世代にとってもお正月のお年玉の味になってきた。

2023年11月01日 我が家の小麦粉

今年は家庭菜園レベルで小麦とライ麦の栽培にはじめて挑戦してみた。量は少なかったので、春の収穫後、夏の間そのまま家の中で保存した。秋になって、そろそろ小麦粉を作ろうかなと思った。まずはライ麦から始めた。最初に穂だけを回収した。量が多ければ、この手作業はしないだろうなと思いながらせっせと穂を切った。

次のステップは穂を布袋に入れて、棒で叩きまくった。そうすると、脱穀できて種と多少の籾殻を回収できる。空っぽの穂先は庭の土に戻った。

続いて、思い種と軽い籾殻を分けるために風をあてて籾殻だけを飛ばす。この作業はトレイとウチワを使って行った。シンプルだけど結構きれいになる。

結果的に数百グラムのライ麦の種を得ることができた。最初にしては悪くない収量だと思う。

小麦も同じ作業を行った。穂を袋に入れて、棒で叩いた。

得られた小麦の種はこちら。さらにウチワで残りの籾殻をとばした。

小麦とライ麦の種をうちの小型製粉機で擦り潰して、全粒粉を作った。初めてゼロからうちだけで作った小麦粉とライ麦粉。量的にそれだけでパンを作るのは無理だったけど、うちのルヴァン種を作って維持するためにちょうどいい量だった。何よりも楽しい体験だったし、うちのパンの主な材料に対する親しみが深まったような気がする...

2023年9月26日 ナンシー

ブルゴーニュへの小旅行の後にリシャーの実家に戻って、隣町のナンシーに遊びに行きました。18世紀に建てられた世界遺産のスタニスラス広場の周りにお店のテラスは一杯を楽しむ人たちで賑わっていました。

スタニスラス広場の魅力は豪華な金箔で装飾された門や美しい噴水です。その門をくぐると、ラ・ペピニエールという街中心の公園に入ります。

ラ・ペピニエールの中にメリゴーランドなど子供用のアトラクションが多く、のあが大喜びでした。

メリゴーランドの近くに人気のアイスクリーム屋があります。そこはなんと、アイスクリームのコーンは手作りのゴーフレットでできています。店の裏に一枚一枚を丁寧に型に巻くところが見えて興味深かったです。確かに美味しくて、ナンシーで一番人気店はうなずけるほどでした。子供たちだけではなく、おばあちゃんたちもアイスクリームを舐める光景が微笑ましく感じました。

リシャーの実家に帰ると、いろいろ手作り料理を食べます。その代表的なものはうさぎの肉料理です。まるごと煮込んで、クロラッパタケというキノコとフライドポテトと一緒に食べるのは我が家流です。のあはいつもウサギの頭がが好物です。庭で食べると更に美味しく感じます。

娘の好物といえば、カエルの足です。粉にまぶして、たっぷりのバターとパセリとニンニクと一緒に炒めるだけですけれど、身が柔らかくて絶品です。毎年フランスに帰ると食べたくなります。

お母さんが作ってくれる料理の中で、ジュラ山脈の名物ヴァン・ジョーヌの鶏肉が最近よく出てきます。モリーユ(アミガサダケ)と生クリームの入ったヴァン・ジョーヌ(黄色ワイン)ベースのソースを鶏肉とご飯にかけて食べます。食事に合わせるワインはもちろんヴァン・ジョーヌの残りです!

来年のフランス帰省は何を食べようかな?

2023年9月24日 ブルゴーニュにて

ちょっと足を伸ばして、ブルゴーニュ地方を見学しました。ディジョンに泊まって、今日はボーヌにいきました。道路の脇に葡萄畑が広がっていて、通る村々の名前はみんなワインの銘柄で、憧れのワイン街道でした。ここもちょうど葡萄の収穫が盛んにおこなわれていました。

ボーヌについて、この小さな街の中にまよって、中世ヨーロッパの古い建物の間にお散歩しました。天気が良くて、とても美しい街並みでした。

お昼はレストランで食べました。ブルゴーニュ地方といえばやっぱりエスカルゴですよね。ガーリックバターのソースをパンに絡めると、それもまた最高です!

名物のウフ・アン・ムーレット(oeuf en meurette)も食べました。地元の赤ワインソースで煮込んだ半熟卵です。これもやっぱりパンと共に食べなければいけません。バゲットと一緒に食べました。

デザートはグラン・マルニエのクレープでした。ビターオレンジの香りがして美味しかったです。でもフランベ(火をつけて)しても、アルコールがしっかり残っていて想像していた以上に大人味でした。

午後はパトリアルシュのワインセラーを見学しました。定番ですけれど、何万本のワインボトルが管理されている地下迷路を歩くと圧倒されます。とても有名な銘柄のワインばっかりが並べてありました。地下空間に漂うワインとカビが混じった匂いは結構いい雰囲気でした。

見学の最後に地下で地元の美味しいワインを試飲することができました。ソムリエの方と話すとついコース外のいいワインを試飲させてくれました。なかなか勉強になりました。でも試飲の時はやっぱり合わせる食べ物が欲しいですね。

2023年9月21日 アルザス地方へ

今日は隣のアルザス地方に行って、パンデピス(ジンジャーブレッド)の博物館を見学した。パンデピス製造工場でありながら、パンデピスとアルザス地方の伝統に関連する骨董品を集めた博物館です。建物自体はヘンゼルとグレーテルのお菓子の家のように飾ってありました。 

中には400年前のお菓子の型もあって、クリスマス、イースターのために使う伝統的な形(サンタクロース、子羊、魚、卵など)のパンデピスや焼き菓子を作るための型もあって、とても面白かったです。

また、田舎で昔使われていた様々な生活道具が展示されて懐かしく興味深かったです。たとえば、パンを作るためのカゴや薪窯の灰を集めるための専用道具もあって、勉強になりました。

博物館を見学した後、店でパンデピスを買ってから隣町でお昼を食べに行きました。アルザスの名物のタルトフランベ(tarte flambée) を食べました。ベーコンと玉ねぎと生クリームを乗せたとても薄いピッザに似ていてシンプルですがとても美味しいです。

街でお散歩をした後、気になっていたフェルベルさんのジャムを買うために近くの小さな村Niedermorschwihrへ移 動しました。アルザス地方の伝統的でカラーフルな家が多く残っていて、とても可愛いところでした。

この時期はちょうどアルザスのワインを作るために葡萄の収穫が最盛期で、葡萄畑の間に葡萄を積んだトラクターが忙しく行ったり来たりしていました。今年のワインは美味しくできるかな。

2023年9月20日 田舎の動物たちとの触れ合い

リシャーの実家はフランスのロレーヌ地方にあります。日本の田舎と違って、たくさんの家畜が放牧されています。ロレーヌ地方には特に白いシャロレー牛がよく見かけます。肉牛ですけれど、結構可愛いです。

近くのアマンス丘の上の牧草地には基本的に羊が放牧されています。ロレーヌ地方の原風景です。しかし、ノアがよく追いかけて嫌われてしまいました。

アマンス丘を少し降りたところにいつもロバがいます。とてもフレンドリーで、なでられるために来てくれます。癒しの時間です。

村の周辺にたくさんの馬もいます。拾った水々しい草を食べさせるのは大好きです。馬のあごの下って、なんとも言えない気持ちのいい柔らかさなんですよ。

フランス北部で9月は畑を耕す季節ですけれど、ところどころに小麦の種まきが終わって、緑になった小麦畑もありました。さて、来年の小麦はたくさん獲れるでしょうか? 

代筆 リシャー、監修 彩子

2023年9月15日 農家のパン

フランスの実家に帰省していて、近くに自家製小麦を使ってルヴァンのパンを薪窯で焼いている農家(la ferme de la Souleuvre)を見つけて、見学してきました。

店の横に小麦が入っているサイロがあって、室内の製粉場と直接に繋がっていました。篩で小麦粉と細かいふすまと粗いふすまを分けていました。粗いふすまは動物の餌になるそうです。

このパン屋さんで扱っているルヴァンは10年前に作ったもので、週に一回植え継ぎして、そのあとは冷蔵保存するそうです。パン生地は常温で発酵させて、発酵時間を調節するストレート法です。  

薪窯は回転式の焼床が特徴的でした。裏の別部屋で燃焼室があって、焼床の下は全体的に空洞になってとても効率よく蓄熱できるそうです。外側は板金に覆われていましたが、中はレンガ積まれていました。 

燃焼室自体はとても小さかったです。中にはまだ薪が燃え続けていました。

表の部屋で薪窯の姿が現れました。左のハンドルで手動で直径3.6メートルの焼床を回転させて、とても便利だそうです。一周の窯入れをすませると、もう小さめなパンが焼き上がっているそうです。

隣はお店で、様々なパンが売られて、みんな美味しそうでどれにしようか迷います。

この農家では80頭の牛を飼っていて、チーズも自家製です。パンに合わせて何種類か買いました。 

今回一番気に入ったパンは「パヴェ」でした。成形が特徴的で、一度ひねりを入れて成形し、焼くときはクープを入れません。そうするとこんな焼き上がり。やってみたいです。

代筆 リシャー、監修 彩子

2023年6月24日 梅ジャム

今年は梅がたくさんとれました。梅シロップを作った後、残りの梅でジャムも作りました。朝食にバターと一緒にカンパーニュに塗って、この梅ジャムのタルティーヌをカフェオレと共にいただきました。なかなかいい組み合わせでした。そして、種を残したままジャムを作るとやっぱり味に深みが出るのです。種をペッペッ出さなければなりませんが、やっぱり美味しい!

2023年5月29日 Artichauts

庭で育てているアーティチョークはちょうど食べ頃になったので、収穫しました。圧力鍋で15~20分ほど蒸したら、一枚一枚をはがして、手作りマヨネーズにつけて、根本の肉厚部分を食べます。我が家では欠かせない初夏の味です。今回はライ麦パンと白ワイン(Riesling)と合わせて食べました。

2023年5月28日 Moisson

今日は庭で育ててみた小麦を収穫しました。まだちょっと緑が残っていましたけれど、台風と梅雨が来る前に救出したかったのです。ちゃんと育ってくれましたね。あとはうまく保存できるかどうかですね。